母性保護に関する条約(妙本:第一〇三号)(母性保護条約:一九五二年改正)
採択 一九五二年六月二八日
国際労働機関総第三五回会期
国際労働機関の総会は、
理事会によりジュネーヴに招集されて、一九五二年六月四日にその第三五回会期として会合し、
この会期の議事日程の第七議題である母性保護に関する諸提案の採択を決定し、
それらの提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定したので、
一九五二年の母性保護条約(改正)と称する次の条約を一九五二年六月二八日に採択する。
第一条 定義
1 この条約は、工業的企業並びに非工業的及び農業的義務に使用される女子(室内で労働する女子賃金労働者を含む。)に適用する。
2 この条約の適用上、「工業的企業」は、公私の企業及びそのいずれの部門も含み、特に次に掲げるものを含む。
(a) 鉱業、石切業その他の鉱物採取業
(b) 物の製造、改造、浄洗、修理、装飾、仕上、販売のためにする仕立、破壊若しくは解体又は材料の変造で行う企業(造船又は電気若しくは各種動力の発生、変更若しくは伝導を行う企業を含む。)
(c) 建築工事及び土木工事を行う企業(建設、修理、保存、改造及び解体の工事を含む。)
(d) 道路、鉄道、海路、内陸水路又は空路による旅客又は貨物の運送を行う企業(船きょ、岸壁、波止場、倉庫又は空港における貨物の取扱いを含む。)
3 この条約の適用上、「非工業的業務」は、公私を問わず、次の企業若しくは施設において、又はこれに関連して行われるすべての業務を含む。
(a) 商業的事業場
(b) 郵便及び電気通信施設
(c) 被用者が主として書記的な仕事に従事する事業場及び管理的施設
(d) 新聞企業
(e) ホテル、下宿屋、レストラン、クラブ、カフェ、その他の飲食店
(f) 病者、虚弱者、貧困者及び孤児の治療及び保護のための施設
(g) 劇場及び公衆娯楽場
(h) 私人の家庭における賃金を目的とする家事労働
その他の非工業的業務で権限のある機関がこの条約の規定の適用を決定するもの
4 この条約の適用上「農業的業務」は、農業的企業(農園及び大規模の工業化された農業的企業を含む。)において行われるすべての業務を含む。
5 この条約が適用されるかどうかについて疑いのある企業、企業の部門又は業務については、権限のある機関が、関係のある使用者及び労働者の代表的な団体があるときは、これらの団体と協議の上これを決定する。
6 使用者の家族の構成員で国内の法令に定めるもののみが使用される企業は、国内の法令でこの条約の適用から除外することができる。
第二条 女子及び生児の定義
この条約の適用上、「女子」とは、年齢、国籍、人種又は信条にかかわらず、既婚者であると未婚者であるとを問わず、すべての女性をいい、「生児」とは、摘出子であるかどうかを問わず、すべての生児をいう。
第三条 出産休暇
1 この条約の適用を受ける女子は、分娩の予定日を記載した診断書を提出するときは、出産休暇を受ける権利を有する。
2 出産休暇の期間は、少なくとも一二週間とし、かつ、産後の強制的休暇の期間を含むものとする。
3 産後の強制的休暇の期間は、国内の法令で定めなければならない。ただし、いかなる場合にも、六週間未満であってはならない。残余の出産休暇の期間は、国内の法令の定めるところに従って、分娩の予定日前に、強制的休暇の期間経過後に、又は一部を分娩の予定日前にかつ一部を強制的休暇の期間経過後に与えることができる。
4 分娩の予定日前の休暇は、分娩の予定日と実際の分娩日との間に経過した期間だけ延長しなければならず、かつ、産後にとるべき強制的休暇の期間は、このため減少してはならない。
5 妊娠に起因すると診断される疾病については、国内の法令に産前の追加休暇に関する規定を設けなければならない。ただし、その最大期間は、権限のある機関が決定することができる。
6 分娩に起因すると診断される疾病については、女子は、産後の休暇を延長して受ける権利を有する。ただし、その最大期間は、権限のある期間が決定することができる。
第四条 出産休暇中の金銭及び医療給付
1 第三条の規定に基づく出産休暇による休業中、女子は、金銭及び医療の給付を受ける権利を有する。
2 金銭給付の額は、適当な生活基準に従って、本人及びその生児が十分かつ健康的な生活を営むに足る給付を確保するように、国内の法令で定めなければならない。
3 医療給付は、資格のある助産婦又は医師による産前、分娩及び産後の手当並びに必要がある場合の入院を含む。医師及び公私の病院の選択の自由は、尊重しなければならない。
4 金銭及び医療の給付は、強制的社会保険又は公の基金によって与えなければならない。いずれの場合にも、それらは、所定の条件を満たすすべての女子に当然の権利として与えられなければならない。
5 当然の権利として与えられる給付を受ける資格を有しない女子は、社会的扶助を受けるために必要な収入調査を条件として、社会的扶助基金から適当な給付を受ける権利を有する。
6 強制的社会保険によって与えられる金銭給付が従前の所得に基づいて決定される場合には、給付計算のため考慮される当該女子の従前の所得の三分の二を下ってはならない。
7 母性給付を与える強制的社会保険制度に基づいて支払うべき拠出金及び、支払われた賃金を基礎として計算される租税で前記の給付を与えるために徴収されるものは、使用者及び被用者の両者によって支払われると使用者によって支払われるとを問わず、当該企業に使用される男女総数について性による差別なく支払わなければならない。
8 いかなる場合にも、使用者は、その使用する女子に与えられるべき前記の給付の費用について個人として責任を負わない。
第五条 育児時間の労働時間への算入
1 女子は、その生児を保育している場合には、国内の法令の定める育児時間中この目的のためにその業務を中断する権利を有する。
2 保育のための業務の中断は、問題が国内の法令によって又はそれに従って規律される場合には、労働時間として計算し、かつ、それに応じて報酬を与えるものとし、また、問題が労働協約によって規律される場合には、条件は、当該協約により決定されるものとする。
第六条 出産休暇中の解雇の禁止
女子がこの条約の第三条の規定に従って出産休暇によって休業する期間中にその使用者が解雇の通告を行い、又はその期間中に満期となるような解雇の予告を行うことは許されない。
第七条 適用除外
1 この条約を批准する国際労働機関の加盟国は、その批准に付する宣言により、この条約の適用から次のものを除外することができる。
(a) 若干の種類の非工業的業務
(b) 農園以外の農業的企業において行われる業務
(c) 私人の家庭における賃金を目的とする家事労働
(d) 家内で労働する女子賃金労働者
(e) 海路による旅客又は貨物の運送に従事する企業
2 加盟国は、本条1の規定を通用しようとする種類の業務又は企業については、その批准に付する宣言にこれを指定しなければならない。
3 前記の宣言を行った加盟国は、前の宣言の全部又は一部をその後の宣言によっていつでも取り消すことができる。
4 本条1によって行った宣言の適用を受ける加盟国は、毎年、この条約の適用に関する年次報告において、前記の宣言によって本条1の適用を受ける業務又は企業に関する自国の法律及び慣行の現況並びに前記の業務又は企業に関してこの条約がどの程度に実施されているか、又は実施されるようとしているかを示さなければならない。
5 国際労働機関に理事会は、この条約が最初に労力を生じてから五年の期間が経過した時は、これらの除外の適用に関する特別報告書を総会に提出しなければならない。この報告書には、この問題に関して今後執るべき措置について理事会が適当と認める提案を含めるものとする。
第八条〜第九条、第一二条〜第一七条 標準最終条項
XI2第一四条—第二一条を参照。
第一〇条〜第一一条 非本土地域への適用
XI3第九条—第一〇条と同じ。
出典 東信堂 「国際人権条約・宣言集 第三版」より抜粋・編集