反差別国際運動(IMADR)
規約人権委員会による最終見解(総括所見)
国際人権NGOネットワーク 訳(注1)
日本
(CCPR/C/79/Add.102、原文:英語、1998年11月6日採択)
1 委員会は、1998年10月28日と29日に開催された第1714回から第1717回会合(文書番号 CCPR/C/SR.1714-1717)において、日本政府の第4回定期報告書(CCPR/C/115/Add.3 and Corr. 1)を審議し、1998年11月5日に開催された第1726回から第1727回会合(CCPR/C/SR.1726-1727)において、以下の最終見解を採択した。
A. はじめに
2 委員会は、委員会によって取り上げられた問題に対する政府代表団の包み隠すことのない率直な答弁と、委員会の委員からの口頭の質問に対する答弁による解説や説明に対して、感謝の意を表明する。委員会は、政府の様々な部署を代表する大代表団の出席に対してもまた感謝を表す。これは規約に基づく義務に応じている締約国の真摯さを証明するものであ る。また委員会は、締約国が本報告書と委員会の活動に関して広汎な周知活動を行なっていることについても高く評価する。委員会は、多くの弁護士と非政府団体(NGO)が本報告書に関する討議を傍聴したことを歓迎する。
B 肯定的な側面
3 委員会は、規約の条項と国内法との調和をはかるための継続的な取り組みを進めていることに関して政府を高く評価する。委員会は、人権 擁護施策推進法の制定を歓迎し、男女雇用機会均等法、労働基準法、出入国管理及び難民認定法、刑法、児童福祉法、公職選挙法、及び風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律といったその他の法律の改正、子ども買春と子どもポルノグラフィーに関与した日本国民を処罰することを目的とした法案をも歓迎する。
4 委員会は、ジェンダーの見地から平等な社会を達成するための政策の調査・策定を目的とする男女共同参画審議会が内閣レベルで設立され、「西暦2000年に向けての新国内行動計画」が採択されたことに関して満足しつつ留意する。また委員会は、日本における朝鮮学校生徒、婚外子、及びアイヌ民族の子どもたちに対する差別と偏見の撤廃に対処するために、法務省の人権 擁護機関によって取られた措置についても留意する。
5 委員会は、国家公務員採用試験への女性の受験資格に関する制限の撤廃、差別的な強制退職の撤廃、結婚・妊娠・または出産を理由とする解雇の撤廃を歓迎する。
C 主な懸念事項と勧告
6 委員会は、第3回定期報告書審議の後に出された委員会の勧告が大部分、実施されていないことを残念に思う。
7 委員会は、人権の保護や人権基準は世論調査によって決まるものではないことを強調する。締約国が、規約上の義務を侵している可能性のあ る姿勢を正当化するために、世論調査の統計を繰り返し用いることに対し、懸念を抱く。
8 委員会は、規約で保障された権利に対して、「公共の福祉」を根拠とする制限を加えることができることについて、懸念を繰り返し表明する。この「公共の福祉」という概念はあ いまいで限定がなく、規約上許容されている範囲を超えた制限を可能としかねない。前回の見解に引き続き、委員会は、締約国が国内法を規約に合致させることを再び強く勧告する。
9 委員会は、人権侵害を調査し、申立人のための是正措置を取ることに役立つような制度的機構(訳注・国内人権 機関)が存在しないことに関して懸念を表明する。当局が権力の濫用を行わず、実際に個人の権 利を尊重するということを保障する効果的な制度的機構が必要とされる。委員会の見解では、人権 擁護委員はそのような機構ではない。なぜなら法務省によって監督され、その権限は勧告を出すことに厳密に限定されてしまっているからであ る。委員会は、人権侵害に関する苦情申し立てを調査する独立的な機構を締約国が設立することを強く勧告する。
10 そのなかでも特に委員会は、警察や入国管理官による虐待に関する苦情申し立てが調査や是正を求めて持ちこまれるような独立した機関が存在しないことを懸念する。委員会は、締約国によってそのような独立した組織または担当者が遅滞なく設置されることを勧告する。
11 委員会は、「合理的な差別」という概念のあ いまいさに懸念を表明する。これには客観的な基準がないため、規約第26条とは合致しない。委員会は、この概念を根拠づけるために締約国によって唱えられた主張は、第3回定期報告書の審議において唱えられていたものであ って、しかも委員会が容認できないと宣告したものと同一であると判断する。
12 委員会は、婚外子に対する差別、特に国籍、戸籍、相続権 などについての差別に関して引き続き懸念する。規約第26条に従って、全ての子どもたちは平等な保護への権 利を有するという立場を取ることを委員会は再び確認し、締約国が民法第900条第4号を含む国内法を改正するための必要な措置を取ることを勧告する。
13 委員会は、朝鮮学校が承認されていないことを含めて、日本国民ではない日本の韓国・朝鮮人マイノリティに属する人々に対する諸々の差別の実例に懸念を抱く。委員会は締約国に、規約第27条に基づく保護は国民のみに限定されてはならないと強調する一般的意見23(1994年)への注意を促す。
14 委員会は、先住民族であってマイノリティであ るアイヌの人々の土地権(訳注・先住地への権利)への否認と同様に、言語と高等教育に関するこれらの人々への差別をも懸念する。
15 同和問題に関しては委員会は、教育、収入、そして効果的な救済制度に関し、マイノリティであ る部落の人々に対する差別が存続しているという事実を締約国が認めたことを是認する。締約国がそのような差別を終結させるための措置を取ることを委員会は勧告する。
16 委員会は、結婚が解消または無効となった日から6ヶ月以内に女性が再婚することを禁止すること及び、男性と女性との間にあ る結婚年齢(訳注・婚姻最低年齢)の相違などの、女性に対する差別的な法律が締約国の法秩序のなかでいまだに存続していることを懸念する。女性を差別する法律規定は全て規約第2条、第3条及び第26条には合致しないのであ り、破棄されるべきであることに委員会は注意を促す。
17 委員会は、外国籍の永住者に対し、外国人登録証を常時携帯していないことを犯罪とし、刑事罰を科している外国人登録法は、規約第26条とは合致しないとした、日本の第3回定期報告書審議後の最終見解で記した意見を再び述べる。委員会は、このような差別的な法律は廃止されるべきであ ることを再度勧告する。
18 出入国管理及び難民認定法第26条は、日本から出国する外国人は、事前に再入国を許可された者のみが、滞在資格を失うことなく日本へ帰ることができるとしており、そのような事前の許可は完全に法務大臣の裁量によって与えられている。この法律の下では、日本における第二、第三世代の永住者や日本にその生活の基盤を置く者は、日本を離れる権 利と日本に再入国する権利を奪われるであろう。委員会は、この規定は規約第12条第2項及び同条第4項に違反するという意見であ る。委員会は政府に「自国」という言葉は「国籍国」と同義ではないことを注意する。委員会はそれゆえに政府が、日本で出生した在日韓国・朝鮮人の人々のような永住者に関しては、事前に再入国許可を取得しなければならないという要件を取り除くよう、強く要求する。
19 委員会は、入国管理手続き(訳注・退去強制手続き)の決定が出るまでの間に収容されている人々への暴行やセクシャル・ハラスメントに関する苦情申し立てに関して懸念を有する。これには過酷な収容状態、手錠の使用、隔離室への収容が含まれる。入国管理施設に収容された人々は6ヶ月まで、いくつかのケースでは2年間にもわたって収容期間が延長されている。委員会は、締約国が収容の状態を再調査し、必要ならば規約第7条及び第9条に沿った状態とするような措置を取ることを勧告する。
20 委員会は、死刑を適用できる犯罪の数が、日本の第3回定期報告書の審議において政府代表団が示唆したとおりに減少してはいないことに対して重大な懸念を有している。委員会は、規約の文言は死刑の廃止をめざしており、死刑をいまだに廃止していない締約国は最も深刻な犯罪にだけ適用するという義務があ るとしていることへの注意を再び促す。委員会は、日本が死刑を廃止するための措置を取り、当面は規約第6条第2項に従って、死刑の適用は最も重大な犯罪に限るべきであ ることを勧告する。
21 委員会は、死刑囚監房に収容されている人々(訳注・拘置所に収容されている死刑確定囚)が置かれている状況に引き続き深刻な懸念を有する。特に委員会は、訪問や通信が不当に制限されていること、死刑囚の家族や弁護人への死刑執行の通告(訳注・事前通知)がなされていないことは規約に合致しないと判断する。委員会は、死刑囚監房における拘禁の状況を規約第7条及び第10条第1項に沿った人道的なものとすることを勧告する。
22 委員会は、以下のことから未決勾留(訳注・公判までの、警察留置場または拘置所での勾留)が規約第9条、第10条及び第14条に定められている権 利の保障を完全には満たしていないことを深く懸念する。未決勾留は警察の監視下において最長で23日間まで続行することが可能であ り、そして速やかにしかも実質的に司法による管理の下に置かれるということがない。その23日間は被疑者には保釈は認められない。未決拘禁施設での取り調べの時間及び期間を律する規則が存在しない。勾留中に被疑者に助言し、支援する国選弁護人がつくことはない。刑事訴訟法第39条第3項の下では弁護人への接触に関して厳しい制限が存在する。取調べでは、被疑者が選任した弁護人の立会いが認められていない。委員会は、日本の未決拘禁制度を規約第9条、第10条及び第14条に合致するように改正し、ただちに発効させることを強く勧告する。
23 委員会は、取調べを担当しない警察の部署に管理されているとはいえ、「代用監獄」が独立した機関による管理の下に置かれていないことを懸念する。これによって、規約第9条及び第14条に定められている被拘禁者の権 利が侵害される機会は増大しかねない。委員会は、「代用監獄」制度は規約の要件を全て満たすものに改善されるべきであ るとした、日本の第3回定期報告書の審議後に出された勧告を再び確認する。
24 委員会は、人身保護法の下で人身保護規則第4条が人身保護令状の請求要件を(1)その人物を拘禁する法的権 限の欠如、及び(2)適正手続(訳注・デュー・プロセス)の明白な逸脱、に限定していることに対して懸念を表明する。また、この法律は他の救済手段が尽くされた場合を要件としている。委員会は、当該規則第4条は拘禁の合法性を争うための救済措置の有効性を狭めるものであ り、したがって規約第9条とは合致しないという見解を有している。委員会は、締約国が人身保護規則第4条を廃止し、いかなる限定や制限も設けることなく人身保護という救済措置を完全に効果的なものとすることを勧告する。
25 委員会は、多くの被告人が自白に基づいて起訴されているという事実に関して深い懸念を有している。委員会は、脅迫によって自白が無理に引き出される可能性を取り除くため、警察留置場または「代用監獄」における被疑者の取調べを厳しく監視し、電子的な方法(訳注・ビデオテープなど)で記録することを強く勧告する。
26 委員会は、刑法の下で検察には、公判に提出される予定であ るもの以外は、捜査の過程で収集された証拠は開示する義務がないこと、弁護側が公判の全ての手順において、そのような証拠資料を請求できる一般的な権 利が存在していないことに関して懸念する。委員会は、規約第14条第3項に規定された保障に従い、防禦に関する権 利(訳注・弁護を受ける権利を含む)が阻害されることなく関係資料の全てを弁護側が入手できるよう、締約国が法律や実務によって保障することを勧告する。
27 委員会は、日本の刑務所制度の諸側面が規約第2条、第3条(a)、第7条、及び第10条の適用上、重大な問題を生じていることに関して深い懸念を抱いている。特に、委員会は以下の事項に関して懸念を有する。
a)表現の自由、結社の自由、プライバシー等を含む受刑者の基本的な権 利を制限する、刑務所内の過酷な行動規則
b)厳正独居(訳注・独房への監禁)という最終手段に頻繁に頼ってしまうことを含めて、過酷な懲罰方法に頼ること
c) 規則への違反を疑われる受刑者に対する懲罰処分を決定するための公正で公開された手続きが存在しないこと
d) 刑務官による報復に対する苦情申し立てを行なった受刑者のための保護が不十分であ ること
e) 受刑者による苦情申し立てについて調査するための信頼できる制度が存在しないこと
f) 革手錠のように、残酷かつ非人間的な取り扱いとみなしうる保護措置(訳注・戒具)に頻繁に頼ること
28 不当労働行為に関する申し立ての場で、申し立て人であ る労働者が労働組合の組合員であることを示す腕章を装着している場合、その労働者からの審問を中央労働委員会が拒否することに対して委員会は懸念を表明する。このような拒否は規約第19条及び第22条に違反する。委員会のこの見解について中央労働委員会の注意を喚起すべきであ る。
29 風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律の改正にもかかわらず、女性の人身売買、さらに、人身売買や奴隷制に類する慣行にさらされている女性への保護の不十分さについて、規約第8条の見地から深刻な懸念が引き続き存在する。子ども買春と子どもポルノグラフィーを禁止するために予定されている新しい立法に関して締約国から提供された情報に照らし、委員会は、性的な同意の下限年齢が13歳という低さとなっている以上、そのような措置では18歳未満の子どもたちを保護できないのではないかという懸念を表明する。また委員会は、子どもの誘拐や性的搾取が処罰されるとはいえ、買春目的で日本に外国人の子どもを連れてくることを禁止する特別な法令が存在しないことに関しても懸念を表明する。委員会は、そのような状況を規約第9条、第17条及び第24条に基づく締約国の義務に沿ったものとすることを勧告する。
30 委員会は、女性への暴力、特にドメスティック・バイオレンス(訳注・家庭内の暴力行為)とレイプの高い発生率、及びこのような行為を根絶するためのいかなる救済措置も存在しないことに関して、引き続き重大な懸念を抱いている。委員会は、日本の裁判所が強制的な性交渉を含むドメスティック・バイオレンスを、結婚生活における通常の出来事であ るとみなしているように思われることに当惑している。
31 委員会は、女性障害者に対する強制不妊手術が廃止されたことを是認する一方で、強制不妊手術にさらされたこれらの人々の補償を受ける権 利を法律が規定していないことを残念に思う。必要な法的措置が取られることを勧告する。
32 委員会は、裁判官、検察官や行政官に規約に定められた人権 を研修させる法的条項がまったく存在しないことに懸念を有する。委員会は、このような研修が実施されることを強く勧告する。裁判官に関する限りでは、規約の規定に精通するために、司法界において研究集会及びセミナーが開かれるべきであ る。委員会の一般的意見及び、選択議定書に基づく個人通報に関して委員会によって表明された見解に関する情報は、裁判官に提供されるべきであ る。
33 委員会は、これらの最終見解に基づいて行動を起こし、第5回定期報告書の準備にあ たって、これらの見解を考慮に入れることを政府に強く求める。さらに委員会は、締約国が国内法制を規約に完全に合致させるため、引き続き法律を見直し、適切な改正を行うことを勧告する。委員会は、締約国が人権 侵害の被害者を救済するための措置を取ること、とりわけ規約の選択議定書の批准を勧告する。
34 委員会は、これらの最終見解を実行するにあ たって、締約国が非政府団体(NGO)を含む国内のあらゆる関係団体との対話に従事することを期待する。委員会は、締約国が確実に政府報告書やこれらの最終見解を広く普及させることを強く求める。
35 委員会は、日本の第5回定期報告書の提出期限を2002年10月と設定する。
以上
(注1・この翻訳は大河原康隆氏(中国帰国者の会)が原案をつくり、国際人権 NGOネットワークの関係者の意見を受けて修正したものである。)
反差別国際運動(IMADR)