University of Minnesota

 

社会政策の基本的な目的及び基準に関する条約(第117号)

(日本は未批准、仮訳)
 
国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百六十二年六月六日にその第四十六回会期として会合し、
この会期の議事日程の第十議題である問題、すなわち、独立国が千九百四十七年の社会政策(非本土地域)条約を引き続き適用し又は批准することができるようにすることを第一の目的とする同条約の改正に関する提案の採択を決定し、
この提案が国際条約の形式をとるべきであることを考慮し、
経済発展が社会的進歩の基盤として役だつものでなければならないことを考慮し、
住民の利益を擁護する財政的及び技術的援助を確保するため、国際的、地域的又は国家的な基礎においてあらゆる努力を払わなければならないことを考慮し、
適当な場合には、高度の能率の生産を促進しかつ合理的な生活水準の維持を可能にする貿易条件を確立するため、国際的、地域的又は国家的な措置を執らなければならないことを考慮し、
公衆衛生、住居、栄養、教育、児童の福祉、婦人の地位、雇用条件、賃金取得者及び独立生産者の報酬、移住労働者の保護、社会保障、公共施設の運営並びに一般的生産の分野における改善を促進するため、適当な国際的、地域的及び国家的な手段によつてあらゆる可能な措置を執らなければならないことを考慮し、
社会的進歩の手段の企画及び実施について効果的に住民に関心を持たせかつ協力させるため、すべての可能な措置を執らなければならないことを考慮して、
次の条約(引用に際しては、千九百六十二年の社会政策(基本的な目的及び基準)条約と称することができる。)を千九百六十二年六月二十二日に採択する。

第 一 部 一般原則

第 一 条

1.すべての政策は、住民の福祉及び発展と社会的進歩に対する欲求の助長とを第一の目的としなければならない。

2.一般的に適用されるすべての政策は、住民の福祉に及ぼす影響を十分に考慮して立案しなければならない。

第 二 部 生活水準の改善

第 二 条

 生活水準の改善は、経済発展計画の主たる目的と認めなければならない。

第 三 条

1.経済発展計画の作成にあたつては、その発展を関係共同体の健全な進展と調整するため、あらゆる実行可能な措置を執らなければならない。

2.特に、家族生活及び伝統的社会単位の崩壊を避けるため、特に次の方法により努力しなければならない。
 
(a)人口移動の原因及び影響の精密な研究並びに必要なときはこれについての適切な措置の採用
 
(b) 経済上の必要により人口の集中を招来する地域における市町村計画の助長
 (c) 都市地域への集中の防止及び排除
 
(d)農村地域における生活条件の改善及び十分な労働力のある農村地域における適当な産業の確立

第 四 条 生産力を向上しかつ農業生産者の生活水準を改善するため権限のある機関が講ずべき措置は、次の事項を含まなければならない。
 
(a)慢性的な負債の原因をできる限り除去すること。
 
(b)農地の非農業者への譲渡が当該国の最大の利益となる場合にのみ行なわれることを確保するため、その譲渡を管理すること。
 
(c)土地及び資源が慣習上の権利を十分に考慮して当該国の住民の最大の利益のために利用されることを確保するため、土地及び資源の所有及び利用を適当な法令の実施により管理すること。
 
(d)小作人及び労働者に対しできる限り高度の生活水準及び生産性又は価格水準の改善から生ずる利益の衡平な配分を確保するため、小作及び労働の条件を監督すること。
 
(e)あらゆる実行可能な方法により、特に生産者及び消費者の協同組合を結成し、奨励し及び援助することにより、生産及び分配の費用を削減すること。

第 五 条

1.独立生産者及び賃金取得者が自己の努力により生活水準を改善する余地を与えられ、かつ、代表的な使用者団体及び労働者団体との協議の後行なわれる生活条件に関する公的調査により決定される最低生活水準の維持を保障される条件をそれらの者に確保するため、措置を執らなければならない。

2.最低生活水準を決定するにあたつては、食料及びその栄養価、住居、被服、医療並びに教育等労働者の家庭生活に不可欠な需要について考慮しなければならない。

第 三 部 移住労働者に関する措置

第 六 条 労働者がその雇用事情により自己の家庭から離れて生活しなければならない場合には、雇用条件については、その労働者の家庭生活の通常の需要を考慮しなければならない。

第 七 条 いずれかの地域における労働力資源が他の地域の利益のために一時的に利用される場合には、労働者の賃金及び貯蓄の一部を労働力が利用される地域から労働力が供給される地域に送付することを促進するため、措置を執らなければならない。

第 八 条

1.一国の労働力資源が施政の異なる地域において利用される場合には、関係国の権限のある機関は、必要であるとき又は望ましいときはいつでも、この条約の規定の適用に関連して生ずる共通の関心事項を規制するため協定を締結しなければならない。

2.前記の協定は、労働力が利用される地域に居住する労働者の享有する保護及び利益よりも不利でない保護及び利益を移住労働者が享有することを定めなければならない。

3.前記の協定は、移住労働者が賃金及び貯蓄の一部をその家族に送付しうる便宜について定めなければならない。

第 九 条

労働者及びその家族が生計費の低い地域から高い地域に移動する場合には、その移動から生ずる生計費の増加について考慮しなければならない。

第 四 部 労働者の報酬及びこれに関連する問題

第 十 条

1.関係のある労働者を代表する労働組合と使用者又は使用者団体との間で自由に締結される労働協約による最低賃金の決定は、奨励しなければならない。

2.労働協約による最低賃金の決定についていかなる適当な取極もない場合には、使用者及び労働者の代表者(使用者団体及び労働者団体が存在するときはそれらの各団体の代表者を含む。)との協議の上、最低賃金率を決定するため必要な措置を執らなければならない3.関係のある使用者及び労働者に現行の最低賃金率を知らせること並びにその最低賃金率が適用される場合にその率より低い率で賃金が支払われないことを確保するため、必要な措置を執らなければならない。

4.最低賃金率の適用を受ける労働者でその適用以降その率より低い率で賃金の支払を受けたものは、司法上その他の法律で認める手段により、法律で定める期間内に不足額の支払を受ける権利を有する。

第 十 一 条

1.すべての賃金の正当な支払を確保するため、必要な措置を執らなければならず、また、使用者は、賃金の支払を記録し、労働者に賃金支払の明細書を発給し、及び必要な監督を容易にする他の適切な措置を執らなければならない。

2.賃金は、通常、法定通貨によつてのみ支払うものとする。

3.賃金は、通常、個個の労働者に直接支払うものとする。

4.労働者が遂行した労務に対する賃金の全部又は一部の支払をアルコールその他のアルコール飲料で行なうことは、禁止しなければならない。

5.賃金は、酒場又は売店において支払つてはならない。ただし、そこで雇用されている労働者の場合は、この限りでない。

6.賃金は、賃金取得者の負債を生ずるおそれが減少するような間隔で定期的に支払うものとする。ただし、これに反する確立された地方的慣習が存在し、かつ、労働者がこの慣習の継続を希望していることを権限のある機関が認める場合は、この限りでない。

7.食料、住居、被服その他の不可欠な物資及び労務が報酬の一部をなす場合には、権限のある機関は、それが十分なものであること及びその現金価格が適正に評価されることを確保するため、すべての実行可能な措置を執らなければならない。

8.次の目的のため、すべての実行可能な措置を執らなければならない。
 
(a)労働者にその賃金に対する権利について知らせること。
 
(b)認められていない賃金控除を防止すること。
 
(c)報酬の一部をなす物資及び労務について賃金から控除する額をその物資及び労務の適正な現金価格までに限定すること。

第 十 二 条

1.賃金前貸しの最高額及びその返済方法は、権限のある機関が規制する。

2.権限のある機関は、労働者に雇用を受諾させるためにその労働者に前貸しする賃金の額を制限する。前貸しを許される賃金の額は、労働者に明りように説明しなければならない。

3.権限のある機関が定めた額をこえて前貸しされた賃金は、法律上回収することができず、また、労働者に後日支払われる賃金から控除することによつて回収することができない。

第 十 三 条

1.賃金取得者及び独立生産者の自発的な形式の貯蓄は、奨励しなければならない。
2.賃金取得者及び独立生産者を高利貸しから保護するため、特に貸付金に対する利率の引下げを目的とする措置により、金貸業者の活動の管理により、及び協同信用組合を通じて又は権限のある機関の管理の下にある機関を通じて適当な目的のために借入れを行なうための便宜を助長することによつて、すべての実行可能な措置を執らなければならない。

第 五 部 人種、皮膚の色、性、宗教、部族又は労働組合員であることを理由として差別しないこと
第 十 四 条

1.人種、皮膚の色、性、宗教、部族及び労働組合員であることを理由として、次に掲げる事項に関し労働者の間に設けられている差別を撤廃することは、政策の目的としなければならない。
 
(a)当該国内に合法的に居住し又は労働するすべての労働者に対して衡平な経済上の待遇を与える労働法令及び労働協約
 
(b)公私の労務への雇用
 
(c)就業及び昇進の条件
 
(d)職業訓練を受ける機会
 
(e)労働条件
 
(f)保健、安全及び福祉に関する措置
 
(g)規律
 
(h)労働協約の交渉への参加
 
(i)賃金率(同一の作業及び企業における同一価値の労働に対する同一賃金の原則に従つて決定される。)

2.人種、性、宗教、部族又は労働組合員であることを理由として設けられている差別による賃金率の現在の較差を低賃金労働者に適用される賃金率を引き上げることにより減少させるため、すべての実行可能な措置を執らなければならない。

3.いずれかの国の労働者が他の国において雇用される場合には、その労働者は、自己の賃金以外に、家庭を離れて雇用されることから生ずる労働者自身及び家族の合理的な出費をまかなうため、現金又は現物による給付を受けることができる。

4.1から3までの規定は、権限のある機関が、母性の保護並びに婦人労働者の保健、安全及び福祉を確保するために必要であり又は望ましいと認める措置を執ることを妨げるものではない。

第 六 部 教育及び訓練
第 十 五 条

1.男女の児童及び年少者が有用な職業につくために十分に準備することができるように、教育、職業訓練及び技能者養成に関する広範囲な制度を漸進的に発展させるため、その地域の事情の下において可能な限り、適切な措置を執らなければならない。

2.国内法令は、学校卒業年齢並びに就業が許される最低年齢及び就業の条件を定めるものとする。

3.学齢期の児童の大多数を収容しうる教育施設を備える地域においては、児童が現存の教育の便宜を利用することができ、かつ、その便宜の拡充が児童労働に対する需要によつて妨げられないように、授業時間中における学校卒業年齢未満の児童の使用は、禁止される。

第 十 六 条

1.熟練労働を発達させることにより高度の生産性を確保するため、新たな生産技術に関する訓練を適当な場合に行なわなければならない。

2.前記の訓練は、被訓練者が属する国及び訓練を行なう国の使用者団体及び労働者団体との協議の上、権限のある機関により又はその監督の下に組織される。

第 七 部 最終規定

第 十 七 条

 この条約の正式の批准書は、登録のため国際労働事務局長に送付するものとする。

第 十 八 条

1.この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長により登録されたもののみを拘束する。

2.この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

3.その後は、この条約は、他のいずれの加盟国についても、その国の批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 九 条

この条約の効力発生は、引き続き千九百四十七年の社会政策(非本土地域)条約の適用を受ける加盟国について同条約の当然の廃棄を伴うものではなく、また、同条約のその後の批准を閉ざすものでもない。

第 二 十 条

1.この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間の満了の後は、登録のため国際労働事務局長に通知する文書によつてこの条約を廃棄することができる。廃棄は、その廃棄が登録された日の後一年間は効力を生じない。

2.この条約を批准した加盟国で1にいう十年の期間の満了の後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年の期間この条約の拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基づき、十年の期間が経過するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 一 条

1.国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録を国際労働機関のすべての加盟国に通告するものとする。

2.事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告するに際し、この条約が効力を生ずる日について加盟国の注意を喚起するものとする。

第 二 十 二 条

国際労働事務局長は、前条までの規定に従つて登録されたすべての批准書及び廃棄書の完全な明細を国際連合憲章第百二条の規定による登録のため国際連合事務総長に通知するものとする。

第 二 十 三 条

国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出し、かつ、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議するものとする。

第 二 十 四 条

1.総会がこの条約の全部又は一部を改める改正条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の定めがない限り、
 
(a)加盟国による改正条約の批准は、改正条約が効力を生じたときは、第二十条の規定にかかわらず当然この条約の即時の廃棄を伴う。
 
(b)加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正条約が効力を生ずる日に終了する。

2.この条約は、これを批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 五 条

 この条約の英語及びフランス語による本文は、ともに正文とする。

出典http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/about/ilo.htm#ilsから抜粋・編集

 

 


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